沖縄タイムス週刊 「ほ〜むぷらざ」連載 人・旅・エッセー
『マレー半島珍道中』(後編)

 クアラルンプール(KL)は世界一高いビルがあるほどの大都会だ。でもマレー人街では日本人がとーっても珍しいみたい。なぜかわからないが、普通 のガイドブックにはこの街の紹介がほとんど書かれていないからだろう。特に公設市場の中では、一躍スターになった。市場中の視線が私達に注がれ、歩くとその視線と「日本人だ日本人だ」という囁く声が、さざ波のように広がってゆく。なぜかみんなすごく嬉しそうで、カメラを向けると大歓声が上がり、言葉を交わした店主は一気に周囲の人気者になっていた。こんな思いをアジアの大都会でしたのは初めてだった。どこの国でも市場は庶民の生活のみなもと。カメラを提げて一人で歩くのもいいけれど、食べ物に関心がある人と野菜や豆腐、魚や肉、果 物、お菓子などの日本との違いや他のアジアの国との違いをあれこれ言いながら、珍しい食べ物を買い食いしたり、現地の調理器具を物色したりするのは最高におもしろい。

 最終目的地ペナン島へは飛行機で行くことにした。便数が多く四十分ほどの飛行時間なので、路線バスのように気軽に飛び乗れる。でも私達はKLを存分に楽しむため最終便を予約しておいた。KL空港といえば、当時開業したての超ハイテク空港。見学がてら夕飯もそこで食べてみようと、早めにタクシーで空港へ向かう。ところがついた空港は古ぼけて照明も暗く、何か変。しかも発着便のボードをいくら確認しても私達の乗る便名が見つからない!青くなってカウンターで聞くと、ここは旧空港だという。そんな馬鹿な!あわててタクシーをひろい、運転手さんをあおって夜道をぶっ飛ばし、新空港に滑り込みセーフでチェックイン。ステキな空港をゆっくりと見る暇もなく、通 路で目についたビーフン弁当を買い、搭乗口前の待合室へ入ったとたんに、体中の力がどっとぬ けた。可哀想に連れはうっすらと涙を浮かべ、よっぽどお腹がすいていたらしく息もつかずにビーフンをかきこんでいる。トラブルより小さいものを「ネコブル」と呼ぶそうだ。ちょっとドラネコだったけど、何とかペナンへ到着、現地に転職した生徒さんが懐かしい笑顔で迎えてくれた。

 彼女の家では私達の来訪と合わせて、会社の同僚達を招き、各国料理の持ち寄りパーティを開いた。私達は市場をまわり材料を探して日本料理を作り、その代わりに中国系、マレー系などの珍しい料理を食べたり、お互いに教え合ったりして楽しく過ごした。茶道をたしなむ連れは、お手前を披露し拍手喝采を浴びた。

 ペナン名物の屋台料理も、あれこれと試してみた。鉄板で香ばしく焼く、クレープよりもっと薄い手延べのパン「ロティ」、カレーうどんに複雑な海の香りが混ざった感じの「ラクサ」など、忘れられない味ばかり。どれも安く、地元の人たちが普段食べているものだ。めん類は他のアジアの国々のそれと同じように米の粉で作ってあり、見かけはうどんにそっくり。工場で茹でためんを各屋台で湯通 ししたり、炒めたりして出すのだが、これがどこの店でもふにゃふにゃで、歯ごたえゼロ。イタリア語では、スパゲティなどのパスタの丁度よいゆで具合を「アルデンテ」という。歯ごたえがある、という意味だ。私と連れはペナン屋台めんの、あまりのコシのなさに「ナシデンテ」という言葉を作り、こっそり進呈した。

 また、この時期に合わせて例によって日本の友人達が次々とペナンへ集まり、今度はマラッカ海峡を臨む天幕を張った中国系レストランで、美味しいシーフードを囲んで大宴会。月明かりの下、みんなで浜を歩いていると次々に漁船が到着し、銀色に光り踊る魚たちが水揚げされるのを見たことも、忘れがたい一夜の思い出になった。旅の最初から最後まで一緒にしようとするとなかなか日程が合わず実現しないけれど、現地で落ち合い半日だけ一緒に過ごしたり、食事だけ一緒にしたりする旅の形も案外おもしろい。さて、次はどこの国へ出かけようか。

以上文責 飯塚 未登利 2002 注意!無断転用転載厳禁!
一つ前のエッセイを読む    リストに戻る     連載エッセー食の雑感も読んでみる