沖縄タイムス週刊 「ほ〜むぷらざ」連載 人・旅・エッセー
『マレー半島珍道中』(前編)

  東京の自宅を開放して、いろんな国の料理を教える料理教室を開いていた頃、生徒さんの1人が突然マレーシアに転職すると言い出した。ペナン島にあるアメリカ系の企業だという。おお!遊びに行くから泊めてね、とすでに心はマレーシア。でもどうせ行くならマレー半島をのんびり縦断するマレー鉄道にも乗ってみたいし、すぐ南隣りの国シンガポールのインド人街・リトルインディアで、名物のフィッシュヘッドカレーも食べてみたい。すると別 の生徒さんが、おもしろ&美味しそうなのでついてくるという。あれこれと計画するところから、もう旅は始まっている。そして旅の連れは食いしん坊に限る。

 まずシンガポールに飛び、私達の滞在と日程を合わせて出張で来てくれた現地に詳しい友人とインド人街で落ち合い、魚の頭がどーんと入った念願のフィッシュヘッドカレーを堪能。ルーツは南インドらしい。魚の頭といっても子供の頭くらいあるから迫力満点だ。しかも盛りつけてある容器はアルミの洗面 器!食後には、私達以外インド人しか歩いていないこの街を散策し、インド音楽の格安CDや、テーブルクロスになりそうなサリーの布なども見つけて大満足。メインストリートにはゴミ一つ落ちていないクリーンイメージのシンガポールも、このあたりまで来ると他のアジアの街と同じように少し汚れていて、なんとなくほっとする。

 翌日は、早朝から数時間かけてマレーシアのクアラルンプール(KL)へ鉄道の旅だ。シンガポールの街はずれにある、大きい教会のような雰囲気のシンガプーラ駅(すでにここはマレー語表記)から出る始発列車は急行で、待っているお客はまばらだが、幼子連れの母親が目につく。マレーシアへの国境越えは列車よりもバスの方が安い上に早いので、殆どの人がバスを利用するけれど、母親としては子供が車内を歩き回っても安全だし、トイレの心配もない列車の方を選ぶんだろうな、と勝手に納得。

 改札口を入ると、まず先にマレーシア入国審査がある。手続きを済ませ、乗り込んだ列車が出発して国境を越えると今度はシンガポールの出国審査場だけの立派な駅があり、全員降ろされ手続きするという順序が逆の不思議な国境越えだ。都会的だったのはこの駅だけで、あとはひたすらゴム園とヤシ畑が広がり、村の横を通 れば、洗濯物が揺れているそばで犬が吠え、鶏が逃げまどい、子供たちが裸足で駆け回っている。初めて見るけど、懐かしいような景色。

 お昼を過ぎた頃、待望の車内販売のお姉さん登場!飛行機で使われていたらしき保温ワゴンから出されたのは熱でひしゃげたプラスティックの弁当箱。中はココナツミルクで炊いたご飯、塩味の効いたゆで卵、煮干しとピーナツを揚げたものに、よい香りのする茶色いたれが添えてある。マレーシアの典型的ご飯「ナシ・ルマッ」だ。素朴で、日本でいえば日の丸弁当?にあたるような感じ。日本式に付け合わせとご飯を別 々に食べると、ぼそぼそしていまひとつ。まわりの人たちの食べ方を真似して全部一緒にまぜまぜして食べてみると、今度はなかなか美味しく、しみじみとした味わいになった。でも、途中で乗り込んできた隣の席のお兄さんが食べはじめた、お母さんの手作りっぽいナシ・ルマッの方が、なんか美味しそうだったなぁ・・・。ご飯が終わって子供たちが退屈し車内で騒ぎはじめた頃、アニメの上映が始まった。う〜ん、なんて的を射た素晴らしいサービス。どの子も画面 に釘付けだ。気がつくといつの間にか、どんどん乗客が増えていてほぼ満席に。そしてその約半分が子供だった。

 やがて、ヤシ畑の影から少しずつビルが見え始めたと思ったらKL駅に到着、私達は下車する。この先レールは、はるかタイまで続く。そのまま乗っていたい衝動に駆られるけれど、今日は大切な連れが居る。いつかきっと。(後編に続く)


※現在、マレーシア国境越えのシステムは変わりました。

以上文責 飯塚 未登利 2002 注意!無断転用転載厳禁!
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