沖縄タイムス週刊 「ほ〜むぷらざ」連載 人・旅・エッセー
『うきうきバンコクオフ』 後編

   『微笑みの国・タイ』。旅行会社のパンフレットなどでおなじみのキャッチフレーズ。本当にみんなが微笑んでいるのかな?まさかねえ、と半信半疑でいたら、そのへんの人と目が合うだけで、微笑みどころか「ニヤ〜ッ」と歯を見せて思いっきり笑いかけられる。『仏頂面 の国・東京』から行った私はその強烈な「ニヤ笑い」にどう応えて良いのやら途方に暮れ、最初のうちは殆ど顔が引きつっていた。おまけにみんなやたらと陽気で、デパートでは店員さんが店内BGMに合わせて体を揺すりながら鼻歌を歌っている。あきれて見つめている私に気づくと、彼女は更に大きな声と踊りで歌いかけてきた。なんか精神構造が違うって感じ。

 違いといえば、味覚に対する感じ方も全然違う。道路の代わりの水路をボートに乗って商売している水上市場という所に、センレックナーム(米の粉でできた乾麺をゆでてスープに入れ、いろんな具をのせて食べるもの)を作っているボートがいた。透き通 ったスープがあっさりとしていて辛くなく、上品な素朴さでとても美味しい。感動していると、一緒に行った通 訳の女の子は、薬味を全種類どばどばと入れている。タイの薬味は、プリッキーヌ(青唐辛子)をナンプラーというイワシで作った魚醤(ぎょしょう)につけたものや砂糖などで、味見をしたら、なんでこんな変な味にしちゃうの?!という位 違う味になっていた。もちろんもの凄く辛い。彼女曰く、「タイではね、食事は辛くないと美味しいって言わないの」。せっかくの繊細なスープの味が・・・と思ったけれど、ベースがしっかり美味しいから、彼女も美味しいと感じるのかもしれない。

 タイの食べ物で忘れてはならないのがフルーツ。どれも安くて美味しい!でもドリアンは決して安くはない。今回のオフでは「初ドリアン」も目的の一つ。目当てのドリアン売りを探すが、その前に匂いが教えてくれた。皮は玉 ねぎが腐ったような生ゴミ系の危ない香りだけれど、内側の熟れた実は濃厚な甘い香り。熟しているのを選んで、売り子のおばさんにナタで割ってもらい、その場でかぶりつく。今までの人生で一度も味わったことのない甘美な味。食べている間も、これを食べるためだけにまたタイに来ようとか、トランクに丸ごと隠し持って帰ろうか、でもでっかすぎて無理かなぁ、、、とそんなことばかりが頭をかすめる。友人も同じく夢中で食べている。そして最後に幸せな後味が待っていた。こりゃ病みつきになるわけだ。思うにこの果 物は、小ぎれいな店で気取って食べるのではなく、切りたてを手づかみで食べるのがよい。市場のいろんな匂いが混じったところで食べれば独特の香りも気にならない。私のお気に入りフルーツの殿堂入りは確定した。

 旅の終わり頃、偶然見つけた運河沿いの小さな市場。肉と魚とハーブを扱っていて、私達の好奇心を満たすにはちょうど良い広さだ。午後も遅いので、のんびりとした雰囲気が漂う。おばあちゃんやお母さん達が山盛りのハーブを売っているそばで、子供たちが昼寝をしたり遊んだりしている。タイでは乾燥ハーブやスパイスはほとんどお目にかからず、元気に育ったフレッシュなものをふんだんに使う。屋台のカレーでも、その何倍もの量 のハーブを薬味としてむしゃむしゃ食べる。タイに自分のキッチンがあったらどんなに楽しいだろう!目の前のさわやかな香りを発散しているハーブの前でちょっと地団駄 。那覇の農連市場にそっくりで妙に懐かしい。そして遠く離れた国なのに、アジアの国々の市場はどこも同じ雰囲気を持っているのはなぜだろうと、いつも思う。また別 の国に行って、そこの市場を歩いてみたい衝動に駆られる。そして次に訪れる国に思いをはせながら機上の人となり、バンコクオフは無事に終わった。

以上文責 飯塚 未登利 2002 注意!無断転用転載厳禁!
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