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香港の、まるでおもちゃ箱みたいな魅力に取り憑かれた私は、半年に1回、時には2週間に2回も、飽きることなく香港に通
った。そのうち、さつきちゃんは中国に留学してしまったが、その後も私は1人で街中を歩き回り、気がつくと地元東京の、自分の庭のように思っていた渋谷の街よりもずっと香港の街の方が詳しくなってしまった。そんな私にツアーコーディネートを頼む友人も後を絶たず、あるマダムには「エステ三昧、美食三昧ツアー」を企画した。海の前に建つ、素敵なホテルのラウンジでイギリス式のアフタヌーンティを優雅に楽しみ、フランス系サロンで念入りに磨き上げた後は、私達でも手が出せるくらいの値段で気軽に食べられるツバメの巣やフカヒレなどの美味しい薬膳料理で、しっとり美肌に。(ついでに私もお相伴。)お買い物は、欧州一流ブランドの縫製をしている香港工場が放出する格安のアウトレットのシルクウエアや小物、刺繍などをおみやげに。干し貝柱などの乾物は、デパートで買うと高いから、乾物街まで出向きじっくり値切ってゲット。そして、はんこ街では、ほれぼれするくらい見事な篆刻をするおじいさんに頼んで、自分だけのはんこを彫って貰う。東京でこんな贅沢は決してできないけれど、香港ではお小遣いで実現可能。
香港島名物のトラム(クラシックスタイルの2階建て路面電車)に乗ってみたいという両親とは、那覇から大型客船で往復した。見慣れた香港島の夜景も、船上から見るとまた格別
。1泊だけの滞在だったが、お粥に飲茶、北京ダックまでしっかり食べて、思う存分美味しい香港を堪能した。船が香港に停泊中、乗下船口には「船上電話」という物が設置された。頭に立派なターバンをぐるりと巻いたインド人のおじさんが電話番で、1日中電話機の前に座っている。通
話は無料。香港は電話料金が月ぎめなので、いくらかけても同じなのだ。でもクルーズ客でその電話を使う人は誰もいない。私はどーしてもその電話を使ってみたくて、用事もないのに現地の友人の家に何度もかけては笑われた。
電話といえば、十数年前に初めて香港へ行ったとき、街中でショルダーバッグのような形の携帯電話を大声で使いながら歩いている人がやたら目に付いた。バッテリー部分がまだ大きく非常に重いので、肩から下げているというわけだ。日本ではそのころ自動車電話はあったけれど、まだそういう個人で使う電話機をあまり見かけなかったので、私も欲しいなぁ、と思っていたのが夢のよう。今の日本のケータイ文化を誰が想像しただろう。1度、これもどーしても使ってみたくて、ホテルのレンタル電話機を借りてみた。すでにショルダー型ではなかったものの、ひと昔前のトランシーバー位
の大きさと重さで、バッテリーがあっという間に切れてしまう。だから通話するよりも充電時間の方がずっと長かった。でもその電話機のおかげで、時期を合わせてバラバラに現地入りしていた日本の友人達ともスムーズに連絡がとれ、美味しい広東料理を囲んで13名も集まる大宴会を催し、大いに盛り上がることができた。
やがて香港は中国に返還され、そのころからなぜか私は香港へ行かなくなってしまった。香港から元気を貰っていた私は、もう香港へ行かなくても、いつも元気でいられるようになったのかも知れない。けれども香港は、相変わらず夜は街中がダイアモンドのように光り輝き、市場も路地も食堂にもでっかい声の広東語が飛び交い、活気であふれかえっているに違いない。私の心の中には、そんな大好きな街・香港がいつでも見える。
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